初期研修医による夏期学生への身体診察法の指導    

当院の総合診療教育部における夏期実習では、学生は、総合病棟勤務の初期研修医とマンツーマンで3日間行動をともにする.回診、カンファランス、各種勉強会以外にも、夜間の救急外来を一緒に見学したり、時にはカンファランスにて研修医の代わりに症例を呈示することもある.

我々は1998年度より、指導することを通じて自らの診察法をより洗練したものにする目的で2年目研修医が採用直後の1年目研修医の身体診察法の習得を指導する試みを行ってきた. 今回、1年目研修医に自分が担当する夏期実習の学生に対して、30分程度で身体診察法(一般診察および意識のある患者の神経所見)を実地指導するように義務づけた.この試みは、1年目研修医が指導を通じて知識を整理できるかということに加えて、学生にとって医師の中で最も身近な存在である研修医から直接指導を受けることがどのような意味をもつかということを探る目的で行った.学生の到達目標は、異常所見を検出できることではなく、バイタルサインから始まる順序立てた身体診察法の習得とした.この試みの評価として、実習終了時に、学生、研修医双方に対して別々にアンケート調査した(表1).学生数は計40名で、学生を指導した初期研修医総数は19名(1年目12名、2年目7名)であり、各研修医が担当した学生数は1?3名であった.

学生は、37名がわかりやすい実地指導であったとし、36名はこの実地指導が有用であったとした.32名が順序立てた身体診察法を教わったとした.所要時間に関しては、7名が短かったとしたが、33名が適当であるとした.25名が大学で過去に順序立てた身体診察法を習ったとした.39名は、身体診察法の習得が卒前教育として重要であると認識していた.一方、1年目研修医は、12名中11名が、2年目研修医は、7名中5名が教えることにより自分の知識を整理できたとした.時間をとられたとした研修医は4名にすぎなかった.

分子生物学、各種画像検査の発達で、現在の卒前の医学教育で習得すべきことがますます増大する傾向にある.また、6回生は目前に越すべきハードルとして医師国家試験をひかえている.本院に今年採用された12名の1年目研修医全員が、夏期実習を受けたほとんどの学生が卒前教育として重要であると認識した身体診察法を、医師免許をとった直後において自信がないとしていた(1).また、医師となり責任をもった診断・治療が必要になってくると、学生時代には自信をもってできると思っていたものでもできないことを認識するようになる(2、3).これは、責任のない学生時代と責任を持たなければならぬ研修医時代における意識の違いに起因すると思われる.

半年後に臨床を実践しなければならない時期であるにもかかわらず、順序立てた身体診察法の教育を大学で受けたとした学生は60%にすぎなかった.現在の大学の卒前教育では、1学年約100名もの学生に身体診察法の少人数教育をくり返し行うのは困難である.今回実習に参加した多くの学生は、研修医に実地指導をうけることは有用であったと評価した.大学における卒前研修と異なり、最近医師となり身体診察法の必要性を実感した研修医が、マンツーマンで、学生を実地指導をしたことが効果的であったと思われる.80%の学生が順序立てて教えてもらったとしたにすぎなかったことは、教える研修医の問題か教えられる学生の問題であるかは定かではないが、満足すべき数字と考えている.

一方、時間を30分と限定したため、忙しい研修医の負担にはならず、むしろ彼らには教えることによる知識の整理に役だっていた.学生は指導医ではなく1-2年前は同じく学生であった研修医と行動をともにし、実地の身体所見法を教わった.これは反復教育ではなかったが、研修医は、85%の学生が身体診察に興味を示したとし、身体診察法を勉強する動機になりえたと思われる.

今回の検討は、厳しいと定評のある本院へ実習に来るという動機をもった学生を対象にしており、この結果が全ての学生にあてはまるとはいえない.しかし、身体診察法の順序を習得目標とした短時間に限定した実地指導は、初期研修医と医学生の双方に有用であり、臨床研修病院ではどこでも実行可能であると考えられる.大学の外において身体診察法の重要性を学生に認識させることは、卒前の臨床技能の学習意欲向上に寄与できると考える.

文献

1. 伊賀幹二、他: 卒後研修開始より1ヶ月間に行った身体診察の習得方法. JIM 1998 (印刷中)

2. 伊賀幹二、他:研修医に対して卒業直後より6か月間施行した心電図実習の成果. 医学教育 29: 97-100,1998

3. 宇都宮俊徳、他:循環器学の学習に対する学生の理解の自己評価:アンケート調査による分析.医学教育.29:79-85,1998